ナイト


チェスを始めてしばらくはナイトのトリッキーな動きに翻弄されフォークをかけられることが多いかも知れません。ナイトと言えばフォークで、もちろんフォークに気をつけること
自分でフォークをかけることを考えますが、ナイトは他にも様々な使い方がありますので順を追って見ていきましょう。

まず、オープニングからエンドゲームまで、ナイトがどのような使い方をされるでしょう。

オープニング
遠くまで利きが及ばないため、早めに展開させて活用できるようにする
好位置へ展開させる
センターに影響を与える
センター付近で活用を考える
駒交換を利用して先へ進める ( できればセンター付近に )
ビショップと交換して相手をビショップペアでなくさせる
他のピースと連携プレイ

ミドルゲーム、エンドゲーム
キング周辺の守り
フォーク、ディスカバードアタック、サクリファイス、ツヴィッシェンツーク ( zwischenzug、挿入手 )、などのタクティクスで使う
Maneuver ( マヌーバー )
0utpost へ運び活用
閉じた局面で活用
Blockade
弱いポーンを攻める
相手ナイトの展開場所をポーンで防ぐ

など

1つ覚えておきたいことに、ナイトは非常に攻撃されやすいピースですので、できる限り守りを利かせておきましょう。将棋で言うところの 「 ひもをつけておく 」 ことです。
ナイトに何の守りも利いてない場合、相手のクイーンにダブルアタックなどでよく狙われてしまいます。

他にも注意しておきたいこと
ナイトが相手ビショップにピンされることで、ナイトを動かせなくなったり、ダブルポーンができてしまうこと。
攻撃を受けやすい位置に展開し、相手に攻撃され何度もナイトを動かすことで相手の駒展開を助けてしまう。
後退する場所を失う。
ナイトを活用するにはスペースが必要。


ナイトに関連するタクティクスはもちろん重要ですが、それはタクティクス関連の本などで学んでいただくとして、ここでは
Maneuver、 Outpost へ運び活用、 N vs. B のエンドゲーム
の3つについて参考ゲームで見ていきましょう。

Maneuver ( マヌーバー )

Maneuvering ( マヌーバリング ) と言われることの方が多いようです。
主に Closed Position ( 閉じた局面 ) や Semi-Closed Position ( 半ば閉じた局面 ) で、働きが良くなる位置へピースを運んでいくことです ( 同じピースを何度か動かして )。これを覚えるとゲームの中でより良い位置にピースを運んでいこうとする意識が高まるでしょう。

11...c5 の局面


PETERGIO123 vs. NM Ty_Twadd 0-1

センターポーンが組み合わさった状態ですが、オープン f ファイルがあり、Semi-Closed Position といった局面です。お互い a サイドキャスリングの可能性が残っている状態です。
Closed Position や Semi-Closed Position は Open Position に比べ、ピースを展開させづらいため、どのようにピースを展開させたら良いか困ります。

状況により臨機応変に対応していかねばなりませんが、上局面ではスペースで白が
勝っているため、白としては不要なピース交換は避けて、ピースを活用することを考え
黒としては適切なピース交換を行なって白の利点を減少させることが考えられます。

12.Qf1?! Qxf1+ 13.Nxf1 でクイーンを交換することは白のスペースの利点を減少させ、黒にとって都合がいいです。


11...c5


スペースの優劣、キングの安全性を考慮に入れた上で、お互いピースをどのように活用したら良いでしょう? そのためのヒントとして2つのことが考えられます。

活用されてないピースを良い位置へ運ぶ ( 可能性のある手を探る )
もし ~ のマスに ・・・ のピースがあったら?

Bg1 → Be3 → Bg5+ or Bd2 or Bc1 → Ba3 
Bb1 → Bc2 そして a サイドキャスリング or Bd3 ( Nd3 を移動させた後 )
Bb1 → Bc2 → Bd1 → Bg4
Ng3 → Nf5 or Ne2 → Nc3 → Nb5
Nd3 → Ne1 ( Q を移動させてから ) → Nf3 → Ng5 → Ne6
b4 cxb4 → Nxb4 or Qxb4
Bc2 → a サイドキャスリング → Qe2 → Rf1
黒が a サイドキャスリング後、Bc2 → Rb1 → b4
Qe3 → b4 cxb4 → Qxa7 ( 可能性 )


など。Maneuver であるのは同じピースを何度か動かして、良い位置へ運ぶ場合です。持ち時間の関係もあるので、これら全てを考えるわけではありませんが、可能性としてこのようなピースの使い方が考えられます。

実際に 「 どの手を指せばいいの? 」 というのは、また別問題で、ここでは上記のようなピースの使い方を思いつくかどうかです。

多くの手を考えるのは時間を消費したり、混乱したりもするので指し手を直感で決めるということを聞いたりしますが、直感が有効に働くのは相当のパターン認識力や長年の
経験や蓄積がある場合だと思います。

洗練されてくれば無駄な手は読まず、直感により限られた手を読むようになるのでしょうが、そこに至るまではむしろ、視野が狭くなり、有効な手に気づかないということの方が多いと思います。時間をかけても可能性のある手を考え、視野を広くすることは無駄にはならないでしょう。


11...c5


白番、つまり黒としては相手番です。自分の手番の時と、相手番では考え方が異なります。自分の手番の時は、自分が指した手に対して相手はどのように応じてくるかを考えますが、相手番の時には、相手の指し手をある程度予想して、それに自分がどのように応じていくかを考えねばなりません。

例えば、12.Bc2、 12.Be3、 12.b4、 12.a5、 などの手を白が指してきた場合、黒はどう応じれば良いかを考えます。中でも 12.Be3 から Bg5+ や 12.b4 などの手は、黒が対応を迫られるため、ある程度対応を考えておく必要があるでしょう。

一方、相手が次に何を指してくるかばかり考えているのは良くありません。と言うのも、相手が何を指してくるのか100%分かるわけではなく、実際に相手が指してきた手に
対して最善手を考えていけばいいこと、また、相手の指し手に関わらず考えるべきことがあるからです。

相手の指し手に関わらず考えるべきことは、優先順位として安全確認が第 1 でしょう。メイトされる可能性はないか、駒損する可能性はないか、不利を招く可能性はないかなど。攻めについても考えますが、相手番の時に自分が攻めることばかり考えていると不利を招くことになるでしょう。

Maneuver のテーマから完全に脱線してますが^^; もう少しこの内容を続けます。



11...c5


この局面ですぐメイトになったり、駒損することはなさそうです。黒は、白マスビショップが無くなると、e6 のマスが弱くなること ( 白が e6 にナイトを運んでくる可能性 )、黒マスビショップが無くなると、 Backward d6 ポーンが弱くなること、などには気づいておきたいです。そのことに気づいておけばビショップを交換すべきか、温存すべきか判断の目安になります。

また、白が Nf5 としてきた時、黒は ...Ne7 とすることが考えられますが、そうすると白は g4 と続けてきそうです。 ...g6 で Nf5 を追いやろうとすると、Nh6 とされ、 Nh6 と Bg8 の交換を黒は避けられなくなります。

黒が a サイドにキャスリングすると、白が b4 として攻めてくることも考えられるため
a サイドキャスリングは様子を見てからということになるでしょう。

黒としてはまずこれらのことを優先的に考えておく方が良いでしょう。短時間のゲームだとそれらのことをじっくり考えているゆとりがないため、持ち時間の長いゲームで試していくと良いでしょう。慣れてくれば短時間のゲームでもそれらを考えていけるようになります。

ゲームの続きに戻ります。



21.Nd2


ここまで駒交換は起こらず、スペースで黒も挽回してきました。ここで黒は Bad Bishop と Nd2 を交換します。 21...Bxd2 22.Qxd2 下図




黒番。 黒はスペースを得ている h サイドから、白は a サイドでの攻めが考えられます。 a7 ポーンが守られてないため、防御面では Kb8 としたいところです。攻めにおいては、g5 で h4 ポーンを守ると、g5 ポーンが弱くなりますが、Bf7 → Bh5 or Bg6、 Ne7 → Ng6 → Nf4 などが考えられます。白の弱点である Backward e4 ポーンを Bg6 、 Nf6 で攻めることなども。

22...g5 23.Be3 Rg8 24.h3?! Nf8?? 下図




Nf8 → Nh7 で g5 ポーンを守ろうとしたようです。しかし、センターの方にあったナイトを端列に持っていって g5 ポーンを守るより、24...g4 とすることの方が有効でした。

25.a5 Nh7 26.Bxc5! 下図




ポジショナル サクリファイス。ポジショナル サクリファイスについては別記事で扱います。

26...dxc5 27.Nxc5 下図




d7 に黒のナイトがあればこのサクリファイスはなかったでしょう。黒のピースは h サイドに集中しており、 a サイドの守りがおろそかになってます。白は Qb4 から Qxb7 の
狙い。白はどう守るべきでしょうか?

黒は 27...Kc7? としましたが、27...Qd6 28.Qb4 Qc7 とするのが良かったようです。

27...Kc7 28.Qb4 Rb8 下図




この局面を初めて見た時、黒の応じ手になるほどと感心しましたが、実際には、29.d6+! Qxd6 30.Rd1 や 29.a6 b6 30.Nb7 などで白優勢です。

ゲームでは 29.Nd3? となり白はチャンスを生かせませんでした。
29.Nd3? Kd8? 30.Qc3? Ng6 31.c5 Nhf8 32.a6 b6 33.c6 下図




34.c7+ でフォークに対し黒がどう守るか? 私は 33...Qd6? を考えましたが、33...Qd6? 34.Rf1 Be8  35.Rf5 で白優勢です。 33...Rc8 や 33...Kc7 が適切な対応です。

黒はピース1つ多くとも、せまいスペースで防戦を強いられてます。 

33...Kc7 34.Bd1 下図




ビショップの積極的な活用。34.Rd1!? → Rd2 → Rf2 の Maneuver の方が良い
ようです。同じピースを何度も動かすことは良くないように思えますが、Closed Position や Semi-Closed Position ではカウンターアタックされにくいためそのようなことが可能です。もちろん Maneuver するのに十分注意は必要です。

白は a サイドで攻め込みづらくなりました。1つ考えられる攻めは、d5 → d6+ とする手ですが、d6 とすると g8 - a2 ラインが開いてしまうこと、d6 ポーンをルークやナイトでサポートしようとして Nd3 を動かすと ...Qf2 を許してしまいます。

黒は ...Re8 で e5 ポーンを守った後、...Nf4 でナイト交換を迫ろうとします。
一方、白はピース交換をして黒に単純化されることを避けること、Nd3 を動かした後
...Qf7+ とされるのを防ごうとします。



34...Re8 35.Bf3


...Nf4 とされた時、ナイト交換を避けたいので、g2 ポーンを失わないように守った手、黒クイーンが f2 へ進入してくることも防いでます。しかし、Spike1.4 の分析を見ると、35.Bh5 や 35.Bg4 の方がより良いようです。例えば、35.Bg4 Nf4 36.Nb4 で 36...Nxb2?? とすると 37.Rd1 で白優勢になります。

35...Nf4 36.Nb4 Qd6 37.Nc2 下図




黒はキングとクイーンで Blockade 、白は b3 → b4 → b5 とするようにも見えますが、Nc2 → Na3 → Nb5+ の狙い ( だと思ったのですが・・・ )。 
黒はそれを防ぐ有効な手段がなさそうですが、37...N8e6 38.dxe6 Rxe6 とするのが
良いようです、この場合、白は 38.Rd1 Nd4 39.Rxd4! とするのが良いです。



37...Nh7?! 38.Ne3


38.Na3 から Nb5+ を狙う方が良いようですが、Ne3 の手は Nc4 から d6+ とする狙いでしょう。 ...Nc4xb6 axb6、a7 とするのは ...Ra1 で Blockade できます。

38...Bg6?? ( 38...Qc5 とすべきでした、39.Nc4 には 39...Bxd5 40.exd5 Nxd5 )  
39.Nc4 Qc5 40.b4 Qf2+ 41.Kb3 Nf6 下図




42.b5?? ここで白に大悪手、42.Rd1、42.Na3 なら白優勢でした。
42...Qc5 43.d6+ Kb8! 44.c7+?? 下図




ここで形勢逆転。白は 44.Qb4 で b5 ポーンを守り、クイーン交換をせまっていればまだ有利でした。勝てるゲームを勝ちきる難しさ。

44...Kc8 45.Bg4+? Nxg4 46.hxg4 Bf7 下図で白リザイン




47.Qb4 Qd4 48.Ra2 Nd3
47.Rd1 Kd7
47.Rc1? Ne2! 48.d7+ Kxd7 49.Qd3+ Nd4+ などで黒優勢。

ナイトのテーマとは関係ないことが多かったですが、ためになるゲームでしたので
最後まで見ていただきました。

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